トレーニングはメニューなのか?
最近は筋力トレーニングという言葉もだいぶ市民権を得て、パーソナルトレーナーやパーソナルトレーニングジムが増えてきていることは喜ばしい限りです。
パーソナルトレーナーやヨガインストラクター、ピラティスインストラクター、医師や理学療法士など医療関係者が健康や運動にまつわる情報を動画サイトやSNSで発信することもあり、ネット記事などでも目にすることが多くなりました。そこで多くの方が使用されている言葉に「トレーニングメニュー」という言葉を見かけることがあります。メニューとプログラムは全く異なります。皆様はその違いおわかりでしょうか。
「メニュー」とは
「メニュー」とは
「メニュー」とは日常でも目にする言葉です。「メニュー」という言葉が使用されているのはどのような場面でしょうか。
まず、飲食店が思いつきます。人によっては美容院やマッサージ店などを思い受べるかもしれません。美容院では「カットのみ」「縮毛矯正」「カラー」だったり、マッサージ店では「首」「肩」「腰」「全身」などという感じかと思います。
他にはパソコンやスマートフォンでは「メニュー画面」という表現がなされます。「スタート画面」とか「オープニング画面」でもいいと思いますが「メニュー画面」です。
日常で目にする「メニュー」という用語
「メニュー」という言葉からどんな印象があるでしょうか?わかりやすく飲食店のメニューを例に話を進めていきたいと思います。例えば、カフェで商品を注文するとします。メニュー表を渡されて、あるいはカウンター奥のメニュー表を見て選ぶと思います。カフェラテにしようか、フラペチーノもいいな、期間限定ドリンクにしようかななど悩む人もいるでしょう。ドリンクにホイップやエクストラショットを追加するかもしれません。これはカフェに限らずファミレスや定食屋でメニューから選ぶ場合も同じことが言えます。飲食店に限らず美容室でもスマートフォンでもメニューから自分がしたい何かを選ぶことになります。
「メニュー」とは利用者に選択権がある
このようにメニューというのは利用者側に選択権がある場合を指します。店からおすすめされることはありますが、最終的にどの商品を選ぶのはご自身にゆだねられます。
「メニュー(Menu)」の語源はフランス語のようで、意味はコース料理の順番を指し、それぞれ「前菜」から一品、次は「スープ」「魚料理」「肉料理」「デザート」…と一品ずつ(あるいはそれ以上)選択します。場合によっては「魚料理」は食べないという選択もあるでしょう。結婚式の披露宴のように完全にお店任せのコース料理もありますが、シェフの提示した料理の中から食べたいものを選ぶという行為が働きます。我々のイメージする「メニュー」に相当する語は「carte(カルテ)」というようです。「アラカルト」という言葉ですね。
「プログラム」とは
日常で目にする「プログラム」という用語
一方で「プログラム」と聞いて思いつくのは、どんな場面でしょうか?
エンジニアや理系出身であればコンピューターのプログラムという言葉でしょうか。
ほとんどの人にとっては運動会や卒業式など式典のプログラムの方がなじみやすいかもしれません。
他にはコンサートや舞台などの演目もプログラムですし、出演者や演目の内容などが記載されたパンフレット(冊子)のこともプログラムと言うことがあります。
これらの共通点とは何でしょうか。印象として「正式な」感じがします。
「プログラム」とは手順表のこと
「プログラム」とはあらかじめ計画されていたものを実行する手順表という意味になります。 映画や映像などの業界では「香盤表」というものがあり、撮影スケジュールや進行表という意味だそうです。 例えば、運動会のプログラムは開会式から始まると思いますが、開会式の「式次第」でも「選手入場→開会宣言→校長先生挨拶…」と進行していき、式の中には来賓挨拶が続いたり優勝旗返還や準備運動などもあるかと思います。開会式終了後は、ようやく競技が開始されていきます。 クラッシックなどのコンサートに行って、プログラムとは異なる曲が演奏されたらどうでしょう。「この曲やるってプログラムに書いてあるのに全然違う曲演奏している」となるはずです。
「プログラム」とは順番に意味がある
プログラムとは主催者が計画通りに実行するためのものであるので、順番に意味があります。
校長先生の話がつまらなくてもスキップすることはできないですし、自分の息子や娘が出場するからといって演目をリクエストすることはできません。
コンピューターのプログラムも処理の順番を勝手に変えることはできません。ゲームで装備をスタートから最強に変えることはできません。(昔、裏技でそういうゲームもありましたが、プログラムのバグではない限り裏技コマンドさえもプログラミングされていると思います)
映画や舞台では主役が重要とはいっても撮影スケジュールは監督を始め製作者側に主導権があります。
音楽アーティストもライブの曲のセットリストでは、「ここで盛り上げて、ここはしっとりバラードにしよう」という意図があるはずです。
利用者側が自分の意志で選択はできないものになります。
「メニュー」VS「プログラム」
言葉はいきもの
ということで、トレーニングは「メニュー」「プログラム」どちらでしょうか。
今のところ正解は「プログラム」と言えそうです。言葉はいきものなので、今後変わっていくかもしれません。意味として正しくなくてもみんなが使っていくから正しくなっていくというのはこれまでも多くありました。そういう意味で「メニュー」という言葉が「プログラム」を意味する可能性は否定できません。日本語の「メニュー」という言葉は元来の意味とは異なるが、フランス語の「carte(カルテ)」に相当するということがあり得ます。例えば「ミシン」や「アイロン」などもそうでしょうし、ことわざや慣用句など昔と現在では意味や用法が変化した言葉は多く存在します。
専門家であればトレーニング「プログラム」
ただ、専門家としてはトレーニング処方をする際に作成者が実施する順番に意図を持たせているので「プログラム」という用語を使用するのがよいと思ってます。選手などからトレーニング「メニュー」という言葉を発する場面に遭遇することが多いですが、いちいち指摘することはなくそこは大人の対応であえてスルーしています。自分が発するときは「プログラム」という言葉を用いますが、選手に伝えるために便宜上「メニュー」という言葉を発することもあります。
また、選手数に対して設備や用具が少なく「今日のトレーニングはベンチプレス、スクワット、デッドリフトの中から2つ選んで実施する」などのように「メニュー」っぽいプログラムになるのも実際にはよくあります。それでも全体としてのトレーニングの順番はありますので「プログラム」と言えるでしょう。
以前トレーニング業界とは関係ない知人と話をしていて「トレーニングカリキュラムは~」と言われたことがありますが、こちらもスルーしておきました。トレーナー育成プログラムとかであればカリキュラムという言葉でもよいのでしょうけど、少なくともその意味で発した感じではありませんでした。そのうち、誰かが目新しさを求めてトレーニング「レシピ」なる用語が発せられ、飛び交うかもしれません。
実際にトレーニングを行う側からすると、「メニュー」であろうと「プログラム」であろうと、大した問題ではないと思います。トレーニングを「メニュー」としてとらえていると「嫌いなものは食べなくてもよい」ということになってしまいます。「好きか嫌いか」ではなく「必要だから」という心構えでトレーニングに取り組んでいただければと思います。パフォーマンスを上げるため、けがを予防するために、時には「嫌いなもの」も食べる必要があります。
「プログラム」であるのはトレーニングの内容だけではなく、行う順番までプログラム作成者の意図があることを理解してトレーニングを行ってみてください。
トレーニングはメニューなのか?まとめ
今回は「トレーニングメニュー」と「トレーニングプログラム」の違いについて述べました。
普段何気なく使用している言葉も深い意味があることを知ってもらえれば光栄です。
もしかしたら私自身もあまり意味を考えることなく使用している言葉があると思います。
自戒を込めてこのコラム記事を書いた次第です。
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Physical Context [ フィジカルコンテクスト ] はストレングス&コンディショニングの原理・原則に基づいた出張型トレーニングサービスです。トレーナーの中村波雄は柔道日本代表の指導経験もございます。
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アスリートのフィジカルトレーニング(チーム・個人)
このコラムを書いた人
Physical Context [ フィジカルコンテクスト ]代表中村波雄
経歴
- 社会人アメリカンフットボールチーム
- 東海大学トレーニングセンター(ラグビー部、男女柔道部、男女テニス部など)
- 森永製菓(株)ウイダートレーニングラボ
- 東海大菅生高校ラグビー部
- 山手学院野球部
- 日本道路公団柔道部
- 実業団ノルディックスキーチームEINS
- 桐蔭学園柔道部(桐蔭横浜大学、高校男女、中学)
- 全日本男子柔道チーム
- 淑徳大学柔道部
- 九州看護福祉大学柔道部 など
委嘱
- 全日本柔道連盟サポートスタッフ(男子ストレングス担当):2001年~2008年(アテネ、北京オリンピック)
- 日本オリンピック委員会強化スタッフ(柔道・情報戦略):2001年~2012年
資格
- NSCA(全米ストレングス&コンディショニング協会)認定ストレングス&コンデショニング スペシャリスト(CSCS)
- NSCA(全米ストレングス&コンディショニング協会)認定パーソナルトレーナー(CPT)
- JATI(日本トレーニング指導者協会)上級トレーニング指導者(JATI‐AATI)
- 国際救命救急協会C.P.R+AED
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Physical Context [ フィジカルコンテクスト ]は、アスリート、一般の方々の身体力向上、コンディショニングのお手伝いをいたします。
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